第1章:n8nとZapierの概要
n8nとは?
n8n(エヌエイトエヌ)は、オープンソースのワークフロー自動化ツールです。ノーコード/ローコードでさまざまなアプリやサービスを連携させることができ、自動化の柔軟性が非常に高いのが特徴です。特に注目すべきは、自分のサーバーにインストールして利用できる「セルフホスティング」対応である点です。
これは、プライバシーを重視する企業や、独自の環境での運用を希望するエンジニアにとって大きな利点です。n8nはノードと呼ばれる構成要素を組み合わせてワークフローを構築していき、複雑な条件分岐やループ処理、APIとの柔軟な連携も可能です。
Zapierとは?
Zapier(ザピアー)は、クラウドベースの自動化ツールで、ノーコードツールの代表格とも言える存在です。使いやすさに特化した直感的なUIが特徴で、登録後すぐに利用を開始できます。
Zapierは「Zap(ザップ)」と呼ばれるトリガー+アクションのセットを組み合わせて自動処理を実行します。事前に統合された数千のアプリケーションとの接続が可能で、プログラミング不要でビジネスプロセスを簡単に自動化できるのが魅力です。
開発の背景と対象ユーザー
- n8nは開発者やテクニカルユーザーを主な対象としており、より柔軟なカスタマイズや複雑な処理を可能にしています。
- 一方、Zapierは非エンジニアのビジネスユーザーを想定して設計されており、UIが親しみやすく、セットアップも非常に簡単です。
つまり、「技術的な柔軟性 vs 使いやすさ」という対比が、この2つのツールを比較する際の軸になります。
第2章:主な機能の比較
ノード(Zapierのアプリ、n8nのノード)の数と連携サービス
- Zapierは、2024年現在で6,000以上のアプリケーションと連携しており、GmailやSlack、Google Sheets、Salesforceなど、主要なクラウドサービスはほぼ網羅されています。事前に設定されたテンプレートも豊富で、数クリックでワークフローを開始できます。
- n8nも300以上のノードを提供していますが、Zapierに比べると数は少なめです。ただし、HTTP Requestノードを活用することで、任意のREST APIと連携可能なため、連携の自由度は非常に高いです。
条件分岐・ループ処理・エラー処理の可否
- n8nはこの分野で優れています。IFノードやSwitchノードを使った条件分岐、ループ処理の設定(例えばデータの配列を1件ずつ処理する)やTry-Catchノードによるエラー処理が可能で、複雑な業務ロジックの自動化に向いています。
- Zapierも条件分岐やマルチステップ処理に対応していますが、**上位プラン(プロフェッショナルプラン以上)**でないと利用できなかったり、処理が単純化されていたりするため、複雑なフローにはやや不向きです。
APIとの連携柔軟性
- n8nの最大の魅力の一つは、HTTP Requestノードを使って自由にAPIを操作できる点です。GET、POST、PUT、DELETEなど、標準的なHTTPメソッドに加え、OAuth2認証やWebhookの自動作成にも対応しています。
- ZapierにもWebhook機能がありますが、基本的にはZapierが用意したAPIインターフェースを使う設計になっており、柔軟性ではn8nに劣ります。
第3章:料金とライセンスの違い
n8nの料金体系とライセンス
n8nはオープンソースソフトウェアであり、GitHubからソースコードを無料でダウンロードし、自分のサーバーにインストールして使う場合は無料です。これは「セルフホスティング型」と呼ばれ、クラウドサービスに依存せず運用できます。
ただし、n8nもクラウド版の提供をしており、公式が運営する「n8n Cloud」では次のようなプランがあります(2025年6月時点):
- Freeプラン:ワークフロー数の制限あり。軽い用途に適している。
- Basicプラン(有料):より多くのワークフロー、実行数に対応。ビジネス向け。
- Pro/Enterpriseプラン:チーム利用やSLA、専用サポートなどが含まれる。
また、n8nのライセンスは**「Fair-code」ライセンス(Sustainable Use License)**を採用しており、商用利用には条件があります。たとえば、クラウドSaaSとして再販売する場合には、別途ライセンス契約が必要になります。
Zapierの料金体系
Zapierは完全なSaaS(クラウド型サービス)で、アカウント登録後すぐに使えます。料金プランは明確で、以下のように段階的に分かれています:
- Freeプラン:
- 月100タスクまで
- 5つまでのZaps
- 15分ごとの実行間隔
- Starterプラン($19.99/月〜):
- 20 Zaps
- 条件付きロジックや複数ステップに対応
- Professional / Team / Companyプラン:
- より多くのタスク、頻度、プレミアムアプリ対応
- チーム共有や高度なロール管理
コスト面での選び方
- 個人開発者やコストを抑えたいユーザーには、セルフホスティングで無料利用できるn8nが有利。
- 技術知識が少なく、すぐに使いたいビジネスユーザーには、初期設定不要のZapierが便利。
- 大規模な業務自動化やカスタマイズ性を重視する企業では、n8nの柔軟性とコストパフォーマンスが大きな魅力になります。
第4章:UIと使いやすさの違い
ワークフロー作成画面の違い
- Zapierは、シンプルで洗練されたUIが特徴です。基本的にはステップバイステップ形式で、トリガーとアクションを順番に選んでいくだけで自動化が完成します。ユーザーが迷わないよう設計されており、初めての人でも直感的に操作できます。
- n8nは、ビジュアルベースのエディターを採用しており、ノード(処理ブロック)をキャンバス上にドラッグ&ドロップし、線でつなぐことでワークフローを組み立てます。自由度が高い反面、最初はややとっつきにくいと感じる人もいるかもしれません。
初心者への配慮
- Zapierは「非エンジニアのビジネスユーザー」を想定しているため、テンプレートが豊富で、「○○と△△を連携」など、目的に合ったワークフローをすぐに使い始めることができます。また、エラーメッセージも平易な英語で表示され、サポート記事も充実しています。
- n8nもチュートリアルやドキュメントが整備されていますが、基本的なAPIやJSONの理解が求められる場面も多く、やや中級者向けです。ただし、ローカルで試行錯誤できる自由度は大きなメリットです。
中上級者向け機能の有無
- n8nは、JavaScriptコードを埋め込んでノード内でデータを加工したり、複雑な分岐や繰り返し処理を加えたりすることができ、エンジニアには極めて強力なツールとなります。関数ノード、Setノード、Mergeノードなどを駆使して、非常に高度なワークフローが作れます。
- 一方のZapierは、コードステップも用意されていますが、基本的にはシンプルさを重視した設計です。複雑な処理やカスタマイズを行うには制限があり、APIやデータ構造の扱いにも限界があります。
第5章:導入・運用面の比較
導入のしやすさ
- Zapierは完全なクラウドサービスで、Webブラウザ上で登録すればすぐに使えるのが魅力です。ソフトウェアのインストールやサーバーの用意は不要で、全てがZapierのクラウド上で完結します。インターネット環境さえあれば、どこからでもアクセス可能です。
- n8nには2つの導入方法があります:
- n8n Cloud(公式クラウドサービス):Zapier同様、登録だけですぐに使えます。
- セルフホスティング:DockerやNode.jsを使って自分のサーバーに構築する方法です。こちらは柔軟性がある反面、インストール作業や初期設定が必要です。技術的な知識やサーバー管理の経験が求められる点は、導入ハードルが少し高いといえます。
セキュリティと拡張性
- ZapierはSaaS型のため、セキュリティはZapier社が管理します。利点は「ユーザー自身がセキュリティを気にしなくてよい」点ですが、自社データを外部クラウドに保存することに懸念を持つ組織もあります。
- n8nのセルフホスティングでは、自社のサーバー内で全てのデータを管理できます。プライバシー保護や独自仕様のセキュリティ要件に応えやすいという大きなメリットがあります。また、カスタムノードの追加やデータベース接続など、独自の拡張も可能です。
コミュニティとサポート体制
- Zapierはサポートが充実しており、公式ドキュメント、チュートリアル、チャットサポートなどが整っています。特に英語圏のユーザーにとっては非常に頼りになります。
- n8nもオープンソースならではの活発なコミュニティがあります。GitHubや公式フォーラム、Discordなどで質問や情報共有が活発に行われており、開発者による貢献も盛んです。英語が主流ですが、日本語のブログ記事や使い方解説も増えてきています。
第6章:ケース別のおすすめ
ここまでn8nとZapierの特徴や違いを比較してきましたが、最後にどんなユーザーや用途にどちらが向いているのかを具体的なケース別に紹介します。
ノーコード初心者の場合:Zapierがおすすめ
- 目的:簡単にタスクを自動化したい(例:Gmailの添付ファイルをGoogle Driveに保存)
- 理由:
- UIが直感的で操作がわかりやすい
- テンプレートが豊富で「選んでつなぐだけ」
- トリガーとアクションの考え方がシンプル
Zapierは「ノーコードでできること」をすぐに体験したい初心者に最適です。とりあえず試してみたい人に向いています。
エンジニアやIT部門が関わる場合:n8nがおすすめ
- 目的:複雑な処理やAPI連携、自社システムとの統合
- 理由:
- API操作が柔軟で、どんなREST APIにも対応可能
- JavaScriptや条件分岐、ループなど高度なロジックに対応
- セルフホスティングで独自仕様にも対応できる
エンジニアが業務自動化を設計・管理する場合は、n8nの自由度の高さが圧倒的に有利です。
中小企業やスタートアップの場合:両者を使い分けるのもアリ
- 目的:コストを抑えつつ業務効率化を図る
- 選び方のポイント:
- 手軽に始めたい→Zapierでライトに自動化
- 内部システムと深く連携したい→n8nで構築
- 費用対効果やセキュリティ要件によって併用も可能
たとえば「営業チームはZapierを使い、エンジニアチームはn8nで社内ツールを連携する」といった役割分担型の使い方も現実的です。
おわりに
n8nとZapierは、どちらも業務自動化を強力に支援してくれるツールですが、その設計思想と使いどころには明確な違いがあります。
- Zapierは、ノーコード初心者でも手軽に始められ、テンプレートとクラウドサービスとの豊富な連携で「すぐに使える便利さ」が魅力です。
- n8nは、エンジニアや技術に明るいユーザーにとって、「自分で作り込める自由度と柔軟性」が最大の武器です。セルフホスティングによるプライバシー確保やコスト削減も大きなメリットです。
どちらのツールにも一長一短があるため、「どれだけ自動化を深く行いたいか」「誰が使うか」「どれくらい自由にコントロールしたいか」という観点から選ぶのが賢明です。
業務の規模や目的に合わせて、両者を上手に使い分けることが、最も効果的な自動化への道と言えるでしょう。